2007〜2008年の「世界酒場紀行」

先日ふと思い立って以前のブログを読み返していたのですが、今読んでも案外おもしろいかも?と思ったものをこちらに移植しておこうかと思います。こちらは2008年12月号の「CDジャーナル」誌に寄稿したもので、タイトルは「世界酒場紀行」。6年前に書いたものです。
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昨年、僕は世界各国の音楽を追いかけて長い旅に出ていた。その町のライヴ情報を探り、現地情報を収集する一方で、夜になると大抵現地の人々に紛れ込んで酒をあおった。今思うと、そんな僕の旅はほとんど「音楽と酒を巡る旅」だった気もする。
10か国ほど行ったヨーロッパの中で、生ビールが一番美味かったのは断然スペイン。この国では生ビールのことを「カーニャ」と呼び、よく冷えたカーニャをタパスと共に胃へ流し込むのは最高の気分である。ただし、バルは長居する場所ではない。財布に余裕があればフラメンコのショウを観ることができるタブラオに場所を変えてもいいけれど、僕の場合は手頃なクラブに足を運ぶことが多かった。バルセロナのような都市部であれば気軽にその町のローカル・アーティストを観ることができたし、複雑なパルマ(手拍子)を笑顔で披露してみせる観客の女の子を眺めているのも楽しいものだ。ポルトガルのリスボンでは、ファドが流れるカーサ・ド・ファドで白ワインをグイッといきたい。ファドの哀愁の響きにほろ酔い気分で耳を傾けていると、ヨーロッパの辺境の地までやってきてしまったという実感がこみ上げてきたものである。

マグレブを含む地中海周辺をウロウロした後、僕は一気に南米へ飛んだ。冬のサンチアゴやブエノスアイレスで呑んだワインもたまらない美味しさだったけれど、もっともアルコール摂取量が多かったのはブラジルのサルバドール滞在期間中だったと思う。僕がこの町で昼から晩まで呑んでいたのがカシャッサ。ピンガとも呼ばれるこの蒸留酒にライムや砂糖を入れるとカイピリーニャというカクテルになるが、安酒場ではこのカシャッサをストレートで呑む。使い捨ての小さなカップに入ったこの液体を3杯も呑めば、あっという間にフラフラ。その状態で、暗くなると町を練り歩き出すアフロ・ブロコのビートや、そこいら中で演奏されているサンバやパゴーヂに耳を傾け、千鳥足でステップを踏むのである。たった2週間の滞在だったが、こんな生活を半年も続けたら誰だって立派なアル中になるだろう。

南米の後はカリブへ。ジャマイカのゲットーでは爆音のサウンドシステムに合わせてレッド・ストライプをあおり、キューバでは老演奏家によるソンを肴にモヒートを。中でも忘れられないのが、トリニダード・トバゴで呑んだラムのココナッツ・ウォーター割り。カリブ最南端に位置するこの国を訪れた時、季節はちょうどカーニヴァルの真っただ中だった。国全体が浮き足だったような、狂乱の日々。爽やかな味わいのラムのココナッツ・ウォーター割りは、カーニヴァルで火照った身体と心をクールダウンさせる効果があった。あの味だけは、あの場所・あの時間でしか味わうことのできなかったものだったと、今改めて思う。

思い返すと、いい音楽の傍らには常にいい酒があった。それは週末になるとクラブやバーへと足を運ぶ現在の日々とも大して変わらないけれど、異国のざわめきの中で味わったそれは、今も僕の耳と舌にしっかりと余韻を残している。

東京郊外の奇跡ーー久米川FOGGY

僕が参加しているTOKYO SABROSOというDJクルーがあります。
このクルーが軸足を置いているのは、ラテンやアフロなどのトロピカル・ミュージック。これまで奇数月第三金曜日、久米川のFOGGYというイカれたDJバーでその名も「TOKYO SABROSO」というパーティーを定期開催してきたのですが、年内でFOGGYでの開催は最後。今後は都心で不定期開催していくことになりました。もちろん都心に移ってもTOKYO SABROSOの「出身地」がFOGGYであることは今後も変わらないのですが、思い入れも強いハコであるため、すでに何ともいえぬ寂しさが込み上げています。

僕がFOGGYで初めてDJをやらせていただいたのは2009年の9月。そのときのことは以前自分のブログでも書いたのですが(http://hazimahalo.exblog.jp/11838847)、当時かなりのカルチャーショックがあったことを今も鮮明に覚えています。住宅街のド真ん中にFOGGYのようなイカれたハコが存在していること。そこに集う人々が濃い顔ぶればかりだったこと。そして何よりも僕が惹きつけられたのは、オーナーである岸さんの人柄でした。
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僕よりも10歳ほど年上の岸さんは埼玉県川越市の出身(ちなみに、奇遇にも僕も川越育ち)。80年代前半にはロンドンに長期滞在し、当時のアンダーグラウンドなクラブ/ライヴ・シーンを体験してきたという方です。あとで分かったことではあるのですが、FOGGYに充満するルードで自由な雰囲気は岸さんが80年代にロンドンで体験してきたものでもあったんですね。ありふれた日常をどのように活き活きとしたものにするか。退屈な人生をどうやってサヴァイヴしていくか。岸さんはロンドンのクラブ・シーンでギャズ・メイオールとその仲間たちから学んできたものを久米川〜八坂という東京郊外のありふれた風景のなかで表現しようとしてきたわけで、岸さんもかなりイカれた人であることは間違いありません。そんなFOGGYと岸さんに魅せられた僕と仲間たちは、その岸さんも巻き込んで2012年より「TOKYO SABROSO」というパーティーを始めました。
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これまでに出演しきたバンド/DJの顔ぶれは豪華そのもの。
そして何よりも素晴らしいお客さまに恵まれたパーティーだったなあ、とつくづく思います。SOUL BONANZAがプレイするアフロ・ファンクに大騒ぎし、YOSUKEくんのカリンボやHIROくんのサルサに熱狂し、岸さんのプレイするブーガルーやMAMIYAくんのニーナ・シモンに反応し……「TOKYO SABROSO」はFOGGYなくしては実現しなかったパーティーだと本当に思います。

そんな思い出深い「TOKYO SABROSO」@FOGGYも残すところ、あと2回です。
都心からはかなりアクセスの悪いところであることは重々承知していますが(笑)、後悔はさせません。ぜひ遊びにきてください。そして、「東京郊外の奇跡」とも言われたFOGGYの空間を体験しにきてください!

9/19(金) @久米川FOGGY (http://foggydmb.com/)
22:00~5:00
¥1.500/1D

GUEST DJ:
山名昇 (BLUE BEAT BOP!)
DJ 吉沢Dynamite.jp
DADDY U (RUMBABOX)
DJ ERI (diskunion)

TOKYO SABROSO DJs:
SOUL BONANZA SOUNDSYSTEM
大石始
岸邦夫 (FOGGY)
YOSUKE (BAOBAB)
A Boy Named Hiro (RESPONSE)
MAMIYA

Support DJ:RYOTA(FRANTIC BROWN BEAT)

FOOD:RED ELEPHANT CAFE

伊勢のかんこ踊り

伊勢神宮外宮から車で30分ほどの宮川流域に残る「かんこ踊り」。
今回は円座町正覚寺と佐八町で取材してきました。
外宮からそう遠くない地域ですが、
踊りの衣装はどう見てもハワイやポリネシアを想像させる腰蓑。
それに縦縞ストライプの上着と、馬のしっぽの毛でつくられた
「シャグマ」という独特な被り物を身につける、なんとも魅力的な踊りでした。

ショチョガマ~平瀬マンカイ~八月踊りの取材で奄美大島へ

9月1日から3日までの3日間、奄美大島へ行ってきました。

目的は奄美大島の秋名という集落で行われるショチョガマ/平瀬マンカイという2つの儀式と、その日の夜に奄美大島最北端、笠利で行われる八月踊り。古来からヤマト(薩摩)と琉球の文化からの影響を受けながらも、独自の文化を発展させ、現在もその痕跡を残す島、奄美。そのディープさにノックアウトされた取材旅行となりました。

ショチョガマは秋名の山中に作られた小屋の上に男衆が乗り、日の出と共にその小屋を揺さぶって倒すという農耕儀礼。僕らも深夜からスタンバイし、早朝の日の出の瞬間に立ち会うことができたのですが、小屋を倒した後、一斉に八月踊りへとなだれ込むシーンには鳥肌が立ちました。あの爆発するような祝祭感はしばらく忘れることができなさそうです。
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午後は同じ秋名の浜辺で行われる平瀬マンカイへ。こちらは浜辺に立つ2つの岩の上にノロたちが乗り、歌と祈りを捧げるというもの。素朴でありながらも、深い歌と踊りにこれまた大感動……。
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その日の夜は最北端、笠利の佐仁集落で行われる八月踊りへ。
奄美の八月踊りは男女が歌を掛け合う、中世の歌垣(http://ja.wikipedia.org/wiki/歌垣)の影響を色濃く残すもの。しかもこの佐仁集落は芸能の盛んな土地でもあるため、素晴らしい歌声の持ち主ばかり。翌日は保存会の会長さんであり、島唄の唄者でもある前田和郎さんに取材させていただいたのですが、こちらもメチャクチャ興味深いお話を聞かせていただきました。ただ、充実した取材であればあるほど、次の取材への課題とお題が出されるのは毎度のこと。今回もとてつもなく大きな課題をいただいた気がしています。

なお、今回はサックス奏者でもある友人のKOYOくん(129th.StreetBand、THE TCHIKY’S)とそのご家族・友人のみなさまに大変お世話になりました。本当にありがとうございました!
KOYOくんのサックスは本当に素晴らしいので、ぜひ聴いてみてください。

今回の取材の成果は来年上半期にアルテス・パブリッシングから出版される旅紀行本に掲載予定。また、旅先でたっぷり撮影してきた映像は来年からスタートさせようと思っているB.O.Nプレゼンツのイベントでご紹介できればと思ってます。こちらもお楽しみに!