2016年初の祭り取材は、1月8日に兵庫県加西市上万願寺町で行われた「東光寺の田遊び・鬼会(おにえ)」となりました。室町時代末期にはすでに行われていたというから、400年以上もの長い歴史を持つとされる祈年行事です。
新年の天下泰平・五穀豊穣などを祈願する正月の法要「修正会」は日本各地で行われており、東光寺の鬼会のように赤鬼・青鬼が大活躍するものも決して珍しいものではありません。ただし、そのなかでも東光寺のものはいくつかの特徴があります。
まずは何と言ってもインパクト大なのがユーモラスな面で、現在継承されているものは170年前に作られたもの。かつてこの鬼の面を作った人物はそこにどのような思いとヴィジョンを込めたのでしょうか。鬼というと各地で得体のしれないものとして恐れと共に描かれてきましたが、東光寺の鬼面には愛嬌すらあり、あまり恐ろしさは感じられません。しかもこの鬼、本尊である薬師如来の化身だと言われており、そこに刻み込まれた多様なイメージに強い関心が沸き起こります。
また、東光寺の鬼会最大の特徴が、五穀豊穣を願う予祝儀礼である「田遊び」と共に行われるということ。当日司会を務めていた保存会の方は鬼会を農耕儀礼として解説していましたが、確かにここの鬼会は正月の法要であると同時に、かつての農耕社会の記憶をさまざまな形で留めた儀礼でもありました。
もうひとつ付け加えておくと、赤鬼が手にした松明や境内のそこかしこにセッティングされた篝火に照らし出され、火祭りとしての雰囲気を持つこの鬼会が、火の記憶と決して切り離すことができない東光寺という寺院で行われていることもまた、とても興味深いことではあります。もともと有明山万願寺と号していたこの寺院は、天文7年(1538年)、赤松氏の襲撃によって全焼。その後、東光寺という名で再建されたと言われています。そうした場所における「火」とはどのような意味とイメージを持つのか――。
近畿一帯に広がる仏教世界の古層に対してジワジワと関心が広がっていただけに、今回もまた、とても意義ある取材旅行となりました。記事掲載は月刊「DISCOVER JAPAN」の連載「あなたの知らないニッポンの祭り」にて。文・大石始、写真・ケイコ・K・オオイシのコンビでお送りいたします。