2007年6月25日、モロッコ・エッサウィラの日記

2007年5月からの約1年間、僕とケイコ・K・オオイシは世界を回る長い旅に出ていました。あれから7年も経ったなんてちょっと信じられませんが、自分たちにとってもあの1年間に体験したもの・培った感覚が今の活動のベースになっていることをたびたび実感します。

その旅の記録はmixiにアップしていたのですが、当時は「友人まで公開」にしていたこともあり、こちらのブログでも少しずつご紹介していくことにしました。
今回アップするのは、2007年6月25日、北アフリカはモロッコの風光明媚な町、エッサウィラのホテルで書いたもの。西アフリカ諸国からモロッコへ奴隷として連れてこられた黒人たちが生み出した土着的な呪術音楽、グナワの巨大フェスティヴァルで体験した興奮を綴ったものです。興奮のあまりちょっとラフな文体ではありますが、グナワ・フェスティヴァルの真っただ中ならではの感覚が生々しく言語化されている箇所もあると思うので、そのままアップすることにしました(なお、貼付けてある映像は僕が体験した2007年のものですが、僕が撮影したものではありません)

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今、グナワ・フェスティヴァルの会場からホテルに帰り、これを書いているところです。ただいまの時刻は深夜2時半。明日の朝にはホテルをチェックアウトしてマラケシュに向かわねばならないのですが、今の気持ちを書きとめるべくPCに向かっています。

グナワという音楽の詳細については、僕などが書くよりも今回あちこちでご一緒させていただいたサラーム海上さんが各所で書かれているので、そちらをご参照ください。簡単に説明すれば、カルカベという金属カスタネットのミニマルなビートとゲンブリという弦楽器の地を這うようなベースラインが特徴。土着的なトランス音楽、そう呼ぶこともできます。

グナワ・フェスティヴァルは、モロッコ各地のみならず世界中から多くの聴衆が訪れる一大グナワ祭りであります。 日本にいる頃からグナワの概要についてはざっくり理解したつもりでいたのですが、今回でその印象は大きく変わりました。
まず、客層。オシャレな格好をした若者なんかがグナワを合唱して大騒ぎしてるし、老人やフツーのオッサンオバサン、ちびっ子なんかも混じって大フィーバー!その客層の広さにまず驚かされました。
それと、今回はフェスが始まる2日前から会場となるエッサウィラに入っていたのですが、時間を追うごとに町中に人が増えていくんですね。で、それに従ってどんどん街の雰囲気が荒れていくんです。 これまでに3回フェスに参加していたサラームさんによると以前のピースな雰囲気がなくなってきてしまっているようですが、日を追うごとにワケのわからん連中も増えていったのは確か。で、グナワのビートがそうした雰囲気の着火装置になってしまうこともあるようです。

それを強く感じたのが、メインステージのトリを飾ったエイジアン・ダブ・ファウンデーションのとき。もちろん、ADFはグナワじゃないです。ベースになっているのはジャングル/ドラムンべースとバングラ・ビート。そのため、ADFのライヴも途中までは割とフジロック的な……というか通常のロック・フェスっぽい雰囲気でした。 それが、終盤でグナワの楽団がステージに上がってコラボレーションをはじめた瞬間に雰囲気が一転。完全に目がイッちゃった連中(もちろんすべてモロッコ人男性)がドワーッと前方に押し寄せ、あちこちで喧嘩も始まる始末。それまでのピースなムードがヤバイ感じに一変してしまったのです。

この変化は、僕にとっては衝撃的でした。なんというか、そこには狂気があったのです。
それまでの数日間はグナワの黒くて突破力のあるビートに気持ちよく身を委ねていたのですが、グナワは僕のような日本からの観光客に向けられているのではなく、100%モロッコの大衆、それも日々生きるなかでさまざまな苦しみやら哀しみを抱えた連中に向けられているんだな、そう最後に実感してしまったのでした。
さきほどグナワのことを「土着的なトランス音楽」と書きましたが、そこには享楽的なトランスではなく、トランスに入って消し去らないといけない「何か」があって、それは僕にとっては知ることもできない、知りたくもない「何か」なのかも……そんなことも考えました。グナワに込められているメッセージは(それが何なのかはわかりませんが)、僕には一生かかっても噛み砕けないぐらい重くて、深いのでしょう。もっといろんなものが詰まった、モロカンにとっての自動着火装置というか……。

とにかく、ADFのライヴの際の、一気に会場の雰囲気がドロッとしたものに包み込まれた瞬間は、今思い出してもゾクッとするほどのものでした。 もちろん、フェスを通して最高に楽しい瞬間をたくさん過ごすことができましたし(ご一緒させていただいた皆さん、本当にありがとうございました!)、ピースな体験もたくさんできたのですが、最後の最後でグナワの、そしてモロッコの底知れぬ深さに一歩足を踏み入れてしまったような気がしてならないのです。

明日一端マラケシュに戻り、今度はワルザザートという内陸の街に移動します。
そこでも凄まじくディープな体験が待っているのですが、詳細は追って。
いやーモロッコ、トンでもない国です。