先日、ドキュメンタリー映画「風の波紋」の試写会にお邪魔いたしました。
監督を手がけたのは、佐藤真監督作品「阿賀に生きる」(92年)の撮影を手がけたほか、2009年にはケニアのストリート・チルドレンを描いた「チョコラ!」を監督した小林茂さん。どちらも大好きな作品だけに、今回も期待に胸を膨らませて試写会場に足を運びました。
この作品の舞台は、新潟県の長野県境に近い豪雪地帯「妻有(つまり)地方」。稲作を主な生業とする小規模な集落が点在するこの地方のうち、小林監督は十日町や松之山、津南、上越に住む人々に目を向けます。
この作品がユニークなのは、集落に代々住む人々だけでなく、都会からのIターン移住者にも目を向けているということ。登場人物のひとりである小暮茂夫さんは2002年に東京から中立山集落に移り住んだ方で、住居は茅葺き屋根の古民家。荒れ果てた棚田にみずから手を入れ、古来からの村落生活にどっぷりと浸かる毎日です。カメラはそんな小暮さんの生活を優しく見つめます。
また、そんなIターン移住者を支える代々の村民たちの優しい眼差しも印象的でした。やはり古老たちの言葉には重みがあり、彼らが出てくるだけで画面がぐっと引き締まります。先祖から代々受け継がれてきたであろう生活の知恵や美学のようなものが言葉の端々から伺えるのがいいですね。僕らもこうした古老たちに取材させていただく機会が多いため、「この人たちにお話を聞いてみたい!」という欲望がムクムクッと沸き上がってきました。
この映画の素晴らしさとは、過疎化する農村の厳しい現実を捉えながらも、決してそれだけではなく、Iターン移住者や地域おこし協力隊という外部からの動きとその交流をしっかりと描いたところにあると思います。
もちろん移住者のみなさんのなかにも日々の生活における苦悩や今後の生活に対する不安はあるはずですが、そこに本作の主眼はありません。新住民/旧住民が入り混じった日々の生活を通じ、今後の村落社会の可能性というものを優しく提示しようとしているところに本作の目的はあるように思えます。もしも「可能性」という言葉が楽観的すぎるのだとすれば、「もうひとつの生活のかたち」を提示しているというか。スクリーンの向こうから「こういう生き方もできるんですよ」という声が聞こえてくるような気がしました。
また、妻有地方の自然の移り変わりを見事に捉えた映像の美しさは溜め息がこぼれるほど。冬に降り積もる雪の白さ、春から初夏にかけての新緑の瑞々しさ、夏の水田の生命力みなぎる青さ。人工的な色彩は一切出てこないのに、とてもカラフルな作品を観たという充足感が残ります。
個人的にいえば、自分たちが現在やっていることと重なり合うものがあまりに多いため、「自分だったらどう撮るだろうか?/どう書くだろうか?」ということばかりを考えながら観ていました。終盤、どんど焼きのシーンがチラリとインサートされますが、数百年の間続いてきた集落の過去の気配がふわっと立ち上がってくるかのようなこのシーンにはやはりゾクッとさせられました。古来からの生活と現在の生活が混ざり合い、過去と現在と未来がひとつに溶け合ってしまったようなシーン。僕らがなぜ祭りや民俗芸能を追いかけているのか、少し分かったような気がしました。
なお、今回の試写会に誘ってくれたのは、長岡市在住の友人である伊部勝俊くんでした(小林茂監督も長岡在住のようですね)。彼からいただいたメールには「僕らの地元の映画を観てくれ」とでもいった気迫みたいなものが伝わってきて、心打たれるものがありました。制作および上映に関して地元のみなさんを含めた有志の方々がサポートしているようですが、そうしたバックアップ体制を作れること自体が素晴らしいことだと思います。
そして、見終わった後、妻有地方に足を運んでみたくなるのもこの映画の力ですね。ぜひ作品のなかに登場した古老たちに会ってみたい、そんな思いにも駆られた素晴らしい作品でした。
映画「風の波紋」は3月19日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー。
公式サイトでは応援団も募集しているとのこと。
映画「風の波紋」公式サイト
http://kazenohamon.com/